これまでの研究成果
平成23年度~平成25年度
厚生労働省労働科学研究費補助金 医療機器開発推進研究事業
「深部機能画像診断のための光音響画像化技術の有用性検証」(H23-医療機器-一般-005)
研究の目的と研究概要
本研究では医工連携に加えて学と産が連動する研究体制を構築し,質的画像診断法としての光音響画像化技術を世界に先駆けて速やかに医療機器として確立することを目的とした。
原理的に被曝がなくリアルタイムに画像化できる特徴を持つ光音響画像化技術は従来の技術ではカバーできない深部の機能を描出できる。本研究ではファントムを用いた基礎実験,及び,防衛医科大学校動物倫理委員会から承認を得た小動物及び中動物実験により,造影剤を使用することなく微細な血管ネットワークの撮像を基本性能とした。光音響画像化技術の臨床価値探索を早期に実施するために,ハードウェア開発として定盤上に各構成要素を並べて組み上げた実験系から臨床研究用としてコンパクトに装置化した。この装置の特徴は小型かつ可搬で,さらに既に広範に使用されている超音波診断装置用プローブと同様の仕様を確保しつつ,ハンディプローブとして独自に開発した。研究期間を通してシステム全体の高速化の課題を改良しつつ,光音響画像だけでは位置を把握しにくい問題を超音波画像との重畳技術で解決した。
PMDAによる薬事戦略相談を実施した結果,動物実験において既存の超音波ドプラ画像と比較した性能試験の必要性に関する助言があった。これを受けて,中動物を対象にドプラ画像と比較して微細な血管網が得られることを確認した。
さらに,医師主体的に実施する臨床研究として防衛医科大学校倫理委員会の承認を得て,前立腺癌,頚動脈狭窄病変,及び,下肢静脈瘤や静脈血栓症などの脈管疾患への適用を中心に5件実施し,有用性を実証した。
研究成果
光音響画像化技術は造影剤を使用することなく微細な血管ネットワークが撮像出来る性能を有する。すなわち,光音響画像は従前の光画像の限界を超音波検出で克服する深部画像化技術という利点だけでなく,低コントラストという超音波検出の苦手を光でカバーできる利点を明確にした。具体的には,ドプラ画像と比較して微細な血管ネットワークの3次元描出が可能で,その計測可能深度は15 mm以上を確保できる。
このような医療価値の高い光音響画像化技術を早期実用化に留まらず使い勝手のよい医療機器とするために,システム全体の高速化や医師が使用しやすい画像表示を検討し,医師が見慣れた超音波画像と重畳表示できる機能を創出した。光と超音波の特長を活かして小型で可搬なシステム装置化を図り、最終的に床面積で60cm×69cmを実現した。さらに専用の照明光学系を設計し超音波診断装置用プローブと一体化させたハンディプローブとして,リニアプローブ,経直腸プローブを実現した。医師主体的に実施する臨床研究として防衛医科大学校倫理委員会の承認を得て,制癌効果を損なわない範囲で勃起神経を温存する前立腺癌摘出術の為の術前評価及び経直腸プローブを導入しての臨床研究,下肢静脈瘤や静脈血栓症を対象とした血管走行の確認観察及び現行の検査法との比較による有用性検証,頚動脈狭窄病変におけるプラーク性状の術前評価のための臨床研究を中心に5件実施し,有用性を実証した。
本研究は医療ニーズが高く医療機器として市場規模が見込める出口戦略が明確な医療機器開発であり,さらに我が国が取り組むべきライフイノベーションの一端を担うべく「より小型で侵襲が少ない高性能な早期診断に資する新たなイメージング技術の開発の推進」であり,「我が国の強みを活かした新たな産業基盤の創出」が実現できる研究である。